電気のコンセントからインターネット通信はできない?実は存在するPLCの仕組みと光回線・WiFiが主流になった理由

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家庭のコンセントは家中につながっているため、「電気が届くなら、同じ電線を使ってインターネットのデータも送れるのではないか」と考えるのは自然です。実際、技術的には電力線を使ってデータ通信することは可能で、「PLC(Power Line Communication、電力線通信)」という技術が存在します。

ただし、壁のコンセントへパソコンを直接つなげばインターネットにつながるわけではありません。家庭の電力線はもともと通信線として設計されておらず、ノイズ、分岐、電気機器、分電盤、変圧器などの影響を受けやすいためです。また、インターネットへ出るには光回線やCATVなどと同様に、どこかでインターネットサービス事業者のネットワークへ接続する必要があります。

この記事では、なぜ普通のコンセントだけではインターネットにつながらないのか、PLCならどこまでできるのか、そして光回線やWiFiが主流になっている理由を通信の仕組みから分かりやすく解説します。

実はコンセントを使ったデータ通信はすでに存在する

電力線で通信する技術はPLCと呼ばれます。IEEEではPLCについて、交流電力を運ぶ電線と同じ導体へ高い周波数の信号を重ねることで、別の通信ケーブルを敷設せずにデータを伝送する技術と説明しています。[参照] IEEE「Power Line Communications」

つまり、「電気の線ではデータを送れない」というわけではありません。50Hzまたは60Hzの家庭用交流電力とは異なる周波数帯に通信信号を載せることで、同じ電線の中を電力とデータの両方が通る仕組みを作れます。

イメージとしては、一つの道路を電力用と通信データ用で時間的に分けるのではなく、異なる性質の信号を同じ線へ重ね、受信側で必要な成分だけを取り出すようなものです。

PLCアダプターなら家庭のコンセントをLANの代わりにできる

PLCの分かりやすい用途が、家庭や施設内のLAN配線です。たとえばルーターがリビングにあり、別室までLANケーブルを引きにくい場合、ルーター付近のコンセントと別室のコンセントへPLCアダプターを設置し、その間の電力線を通信経路として利用できます。

接続イメージは「インターネット回線→ルーター→LANケーブル→PLC親機→家庭内の電力線→PLC子機→LANケーブル→PC」のようになります。

パナソニックも現在、既存の電力線へデータを載せてネットワークを構築するPLC製品を提供しています。通信線を新たに敷設しにくいビルや工場などで利用できると案内しています。[参照] Panasonic「nessum対応 PLCアダプター」

ただしPLCだけではインターネット回線そのものにはならない

ここで重要なのが、PLCによる「家庭内通信」と「インターネットへの接続」は別だという点です。

PLCアダプターを2台購入して家庭のコンセントへ挿しても、それだけでGoogleやYouTubeへアクセスできるようになるわけではありません。どこかに光回線、CATV、モバイル回線など、インターネットへ接続する上流回線が必要です。

これはWiFiルーターも同じです。WiFiルーターそのものがインターネットを生み出しているのではなく、光回線などから届いたインターネット通信を家庭内の端末へ無線で届けています。PLCも、その家庭内部分を電力線へ置き換える技術と考えると分かりやすいでしょう。

なぜ電力会社のコンセントから直接インターネットにつながらないのか

電気のコンセントは発電所や変電所を経て電力網につながっています。そのため、「電力会社側にインターネット設備を置けば全部の家庭につながるのでは」と考えることもできます。

技術としては、電力網を利用した広域PLCやBPL(Broadband over Power Lines)という考え方も存在します。しかし、電力網はもともと高速データ通信を目的に設計されたネットワークではありません。

発電所から家庭までの間には変電所、変圧器、分岐、配電設備などが多数あります。高速通信信号はこれらを電力と同じように簡単に通過できるとは限らないため、単に電力会社側へインターネット回線をつないだだけでは各家庭のコンセントまで高速通信を届けられません。

電線は「50Hz・60Hzの電力」を運ぶことを優先して設計されている

日本の家庭用電源は地域によって50Hzまたは60Hzの交流です。電力線は、この電力を安全かつ効率的に家庭へ届けることを第一目的として設計されています。

一方、高速データ通信ではMHz(メガヘルツ)級など、はるかに高い周波数の信号を扱います。PLCではこの高周波信号を電力線へ重ねて通信します。

しかし、高周波通信の観点では家庭の電力線は理想的なケーブルではありません。IEEEも、電力線にはインピーダンスの変動、インパルスノイズ、信号減衰、分岐によるマルチパスなど、通信媒体としてさまざまな課題があると説明しています。[参照] IEEE「Power Line Communications」

家電製品から大量の電気的ノイズが発生する

家庭のコンセントには冷蔵庫、電子レンジ、エアコン、テレビ、パソコン、充電器、LED照明などさまざまな電気製品が接続されています。

これらの機器にはモーターやスイッチング電源、インバーターなどが使われており、電力線へ高周波ノイズを発生させることがあります。PLCのデータ信号と同じ付近の周波数にノイズが入れば、通信品質が低下します。

たとえば普段は正常なのに、電子レンジや特定の家電を動かしたときだけPLC通信が遅くなる、といった現象が起こる可能性があります。LANケーブルや光ファイバーとは通信環境の性質が異なります。

コンセント同士が同じ回路とは限らない

同じ家のコンセントでも、すべてが単純に一本の電線で直結されているわけではありません。分電盤から複数の回路へ分かれて配線されています。

日本の住宅で一般的な単相3線式では、コンセントが異なる系統へ接続されていることもあります。この場合、PLC信号が別系統へ渡りにくくなり、通信速度の低下や接続不能が起きる場合があります。

実際にパナソニックの業務用PLCでも、異なる相をまたぐ通信性能を改善するための機器が用意されています。これは、電力線ならどのコンセント間でも同じ条件で通信できるわけではないことを示しています。[参照] Panasonic「PLCアダプター」

変圧器も広域PLCを難しくする要因になる

家庭へ届く電気は、発電所からそのまま100Vで送られているわけではありません。送電時には高い電圧を使い、変電所や柱上変圧器などを通して段階的に電圧を下げています。

電力としての50Hz・60Hz交流は変圧器を介して適切に送れますが、高周波の通信信号まで同じように通過できるとは限りません。そのため、電力網全体でPLC通信を行うには、通信信号を中継する設備や別の通信経路が必要になる場合があります。

この点でも、「コンセントが全国の電力網につながっている=そのまま全国規模のLANとして使える」というわけではありません。

光ファイバーは最初から高速通信に適した媒体として使われている

光回線が普及した大きな理由の一つは、光ファイバーが高速通信に非常に適していることです。

光ファイバーでは電気信号ではなく光を使って情報を伝送します。大容量通信が可能で、一般的な電気的ノイズの影響も受けにくく、長距離でも高速通信を実現しやすい特徴があります。

家庭内に既存の電線があるというPLCのメリットは大きいものの、新しく高速通信網を構築するのであれば、光ファイバーを敷設するほうが高い通信性能を確保しやすいのです。

LANケーブルも通信専用に設計されている

Ethernetで利用するLANケーブルも単なる銅線ではありません。複数の線を対にしてねじるツイストペア構造など、ノイズを抑えながら高速データ通信するための工夫がされています。

Cat6、Cat6AなどのLANケーブルなら1Gbpsや10Gbps級の通信環境を構築できます。通信専用に設計されているため、家電製品を接続することを前提とした電力線より通信品質を管理しやすくなります。

そのためLANケーブルを新しく敷設できる場所では、PLCよりEthernetが優先されることが多くなります。

WiFiもPLCより便利な場面が多い

家庭内LANでPLCが主流にならなかった理由には、WiFiの急速な高性能化もあります。

WiFiなら壁の中へLANケーブルを通さなくても、スマートフォン、タブレット、PC、テレビ、ゲーム機など多数の機器を接続できます。現在ではWi-Fi 6、Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7など高速な規格も普及しています。

PLCにはコンセントごとにアダプターが必要になる一方、WiFiはアクセスポイントの電波が届けば多数の端末を直接接続できます。その手軽さが家庭用途で大きなメリットになっています。

それでもPLCが便利な場所はある

PLCが不要な技術になったわけではありません。WiFiが届きにくく、LANケーブルも新設しにくい場所では非常に便利です。

たとえば鉄筋コンクリートや金属によってWiFi電波が遮られる建物、既存配管に余裕がなく新しいLANケーブルを通せない施設、工場、駐車場、学校、介護施設などでは既設の電力線を通信線として利用できるメリットがあります。

パナソニックの現在のPLC製品も、ビルや工場など通信線工事や無線通信が難しい場所を主な活用例として紹介しています。[参照] Panasonic「nessum対応 PLCアダプター」

現在のPLCには国際標準もある

PLCは単なる実験的な技術ではなく、国際標準が存在する通信方式です。

たとえばパナソニックの現在のNessum対応PLC製品では、IEEE 1901-2020やITU-T G.9905への適合が案内されています。使用周波数は2MHz~28MHz、PHY上の通信速度は240Mbpsとされています。[参照] Panasonic「PLCアダプター仕様」

ただし、このような「最大240Mbps」といった数字は物理層の理論値であり、実際にアプリやWebサイトで得られる速度とは異なります。電力線の状態や接続機器などによって実効速度は変化します。

昔の家庭用PLCでは理論210Mbpsでも実効速度はもっと低かった

PLCでは規格上の最大通信速度と実際のデータ転送速度に大きな差が生じることがあります。

たとえばパナソニックの家庭向けHD-PLC製品「BL-PA510」では、PLC部分の理論上の最大通信速度は210Mbpsですが、仕様上の実効速度は最大90Mbps(UDP)、最大65Mbps(TCP)とされています。[参照] Panasonic「BL-PA510 仕様」

しかも実際の家庭では電力線の状況によってさらに速度が変動します。光回線が1Gbpsや10Gbpsへ高速化し、WiFiも高速化している現在では、家庭向けネットワークの主役としてPLCを選ぶメリットが以前より限定的になっています。

「コンセントにLAN端子を付ければいい」のでは?

壁のコンセント自体にLAN端子やWiFiアクセスポイントを組み込むことは可能です。しかし、その場合でも裏側には何らかの通信経路が必要です。

新築住宅では、各部屋へ電源配線とLANケーブルをあらかじめ敷設し、壁のプレートに電源コンセントとLAN端子を並べて設置することがあります。このLAN端子は見た目こそコンセントの隣にありますが、電力線で通信しているわけではありません。

PLC対応設備なら電力線自体を通信に利用できますが、一般的な住宅では専用LAN配線またはWiFiを利用する方式のほうが一般的です。

電気とインターネットを同じ線で送る技術は逆方向にもある

興味深いことに、「電気用の線でデータを送るPLC」とは反対に、「通信用のLANケーブルで電気も送る」という技術も広く普及しています。それがPoE(Power over Ethernet)です。

PoE対応のLANケーブル接続では、1本のEthernetケーブルを使って通信と給電を同時に行えます。監視カメラ、WiFiアクセスポイント、IP電話などで広く使われています。

つまり物理的には、「電気のための線」と「通信のための線」を完全に分離しなければならないわけではありません。必要な規格、送受信装置、信号処理を用意すれば、一本のケーブルで電力と通信を共存させることができます。

では、なぜ新築住宅を全部PLCにしないのか

既存住宅では電源線をそのまま利用できるPLCにメリットがありますが、新築時に最初から配線できるのであれば、通信専用のLANケーブルや光ファイバーを一緒に敷設したほうが高速で安定したネットワークを構築しやすくなります。

たとえばCat6AのLANケーブルを主要な部屋へ敷設しておけば、10Gbps Ethernetに対応できる環境を作れます。家電製品のノイズや電源回路の分岐状態によって通信品質が変わるPLCより予測しやすい構成です。

PLCは「通信専用配線を追加するのが難しい」という問題を解決することに大きな価値があり、あらゆるLAN配線を置き換えるための技術とは性格が異なります。

もし自宅でPLCを使いたい場合の注意点

自宅でPLCを利用する場合は、親機と子機を可能であれば壁のコンセントへ直接接続し、製品メーカーが指定する接続方法を守ることが重要です。

電源タップ、雷サージ保護機器、ノイズフィルター、UPSなどを途中に挟むとPLCの高周波信号まで減衰してしまい、通信できなくなる場合があります。また同じ家の中でもコンセントの回路によって通信品質が変わります。

「PLCならどのコンセントでも必ず高速通信できる」と考えず、実際の住宅環境で通信できるかを確認して導入する必要があります。

インターネットと家庭内LANを分けて考えると理解しやすい

電気のコンセントとインターネットの関係を理解するには、「家までインターネットを持ってくる回線」と「家の中で各端末へ通信を届けるLAN」を分けるのがポイントです。

役割 代表的な技術
家までインターネットを届ける 光回線、CATV、5Gなど
家の中を有線でつなぐ Ethernet(LANケーブル)
家の中を無線でつなぐ WiFi
家の中の電力線でつなぐ PLC

PLCは基本的にこの表の「家庭内LAN」を作る選択肢の一つです。上流にインターネット回線がなければ、PLCだけでは外部インターネットへアクセスできません。

将来はコンセントだけでインターネットにつながるようになる?

技術的には、電力線を広域通信へ利用すること自体は可能です。しかし、既存の光ファイバー網や携帯通信網がすでに広く整備され、高速化も続いているため、一般家庭向けインターネットを全面的に電力線へ置き換える必然性は大きくありません。

特に光ファイバーは大容量通信を得意とし、5G・6Gについても基地局の先では光ファイバーなどの高速バックホールが利用されます。一方、家庭内ではWiFiが便利なため、電力線通信がすべてを置き換える構図にはなりにくいでしょう。

ただしPLCは、スマートグリッド、設備制御、工場、ビル、IoTなど、既存の電力線を活用できる分野で今後も利用される可能性があります。

まとめ:コンセントで通信はできるが、電力線はインターネット専用線ではない

電気のコンセントからデータ通信ができないわけではありません。実際にPLC(電力線通信)という技術を使えば、家庭や施設の電力線を使ってネットワーク通信ができます

しかし一般家庭のコンセントへパソコンを挿すだけでインターネットにつながらないのは、電力網が高速データ通信専用に設計されたものではなく、さらにインターネットへ接続する事業者のネットワークが別途必要だからです。

電力線には家電によるノイズ、配線の分岐、インピーダンスの変化、分電盤や変圧器など高速通信には不利な要素があります。そのため、高速で安定した通信には専用の光ファイバーやLANケーブルのほうが適しています。

一方で、LANケーブルを新しく敷設できずWiFiも届きにくい場所では、既設のコンセント配線を使えるPLCが非常に便利です。つまり「コンセントではインターネット通信ができない」のではなく、通信は可能だが、電力線の特性上、光回線やLAN、WiFiの代わりとして万能ではないというのが正確な理解です。

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