音声や楽曲、映像などを細かく切り貼りし、テンポや音程を加工して制作する「音MAD」は、編集によって元作品とは大きく異なる表現になることがあります。しかし、「原型が分からないほど加工したから著作権上問題ない」とは一概にいえません。また、動画投稿サービスにおける収益化の可否と、著作権法上の適法・違法の判断も別の問題です。ここでは、日本の著作権法を前提として、音MADを制作・公開するときに知っておきたい基本的な考え方を整理します。
音MADは「どれだけ加工したか」だけでは判断できない
音MADでは、既存の楽曲、アニメやテレビ番組の音声、ゲーム音声、動画などを素材として利用することがあります。このような素材が著作物に該当し、著作権によって保護されている場合、利用方法によっては権利者の許諾が必要です。
重要なのは、加工量そのものを基準として「ここまで変えれば自由に使える」というルールはないことです。速度を変更する、音程を変える、細かく切断する、並べ替える、エフェクトを加えるといった加工を大量に行ったとしても、それだけを理由に著作権の問題がなくなるわけではありません。
例えば、ある楽曲の一部分を細かく切り刻み、音程を変更して別のメロディーのように加工したケースを考えてみます。完成作品が原曲とは大きく違って聞こえても、制作過程で他人の著作物を利用している以上、その利用行為について著作権法上の検討が必要になります。
音MADで関係しやすい著作権とは
著作権は一つの権利ではなく、利用方法に応じた複数の権利によって構成されています。インターネット上で音MADを公開する場合には、複製権、公衆送信権、翻案権などが問題になる可能性があります。
さらに、市販楽曲などの音源を利用する場合には、作詞・作曲に関する著作権だけでなく、実際に録音された音源についてレコード製作者や実演家の権利が関係する場合があります。そのため「楽曲自体が利用可能だから、市販CDなどから取得した音源も自由に使える」とは限りません。
映像を利用する音MADでも同様です。アニメ、映画、テレビ番組、ゲームなどには複数の権利が関係する可能性があるため、使用している素材ごとに権利関係を確認する必要があります。
「数秒なら大丈夫」「原型がなければ大丈夫」という基準はない
インターネットでは「数秒なら著作権侵害にならない」「○秒以下ならセーフ」といった説明を見かけることがあります。しかし、日本の著作権法に、一般的なルールとして「○秒以内なら無許可で利用できる」と定めた基準があるわけではありません。
同様に「○%以上加工すれば大丈夫」「原型が分からなくなれば著作権が消える」といった一律の基準もありません。素材の長さだけではなく、何をどのような目的・方法で利用しているのかなど、具体的な事情によって判断が変わります。
したがって、音MADを制作するときには「加工率」を安全性の基準にするのではなく、使用する素材について許諾があるのか、利用規約やガイドラインで認められているのか、著作権法上の例外規定に該当するのかを確認することが重要です。
「引用」なら音MADにも自由に使えるとは限らない
著作権法には、一定の条件を満たした場合に著作物を引用できる仕組みがあります。しかし、単に出典を書けば引用になるわけではありません。公表された著作物であること、公正な慣行に合致すること、報道・批評・研究その他の引用目的上正当な範囲内であることなどが求められます。
例えば、映画評論の記事で特定の表現を論評するため必要な範囲を引用する場合と、音楽作品そのものを楽しませるために素材をリズミカルに配置する場合では、利用目的や作品内での役割が異なります。
音MADだから引用が成立しないと一律に決まるわけではありませんが、「引用と書けば大丈夫」「出典を載せれば許可はいらない」と判断するのは危険です。
ニコニコの収益化停止と著作権法違反は同じ意味ではない
ここは特に混同しやすいポイントです。投稿サービスで収益化できないことと、その作品が著作権法に違反していることは同義ではありません。
動画サービスには、法律とは別に利用規約、収益化プログラムの条件、権利処理の仕組みなどがあります。そのため、法律上の最終的な判断が行われたわけではなくても、プラットフォーム側の条件によって収益化の対象外になることがあります。反対に、サービス上で公開できていることだけを理由として、法律上も問題がないと断定することもできません。
ニコニコで収益化を考える場合には、現在適用されているクリエイター向けの規約やガイドラインを確認し、使用素材について必要な権利処理が行われているかを個別に確認することが大切です。
音MADを収益化したい場合に確認するポイント
まず、動画に使用している素材を一覧にすると整理しやすくなります。「BGM」「原曲」「人物の音声」「アニメ・ゲームの映像」「画像」などに分け、それぞれについて自分が制作した素材なのか、第三者の著作物なのかを確認します。
第三者の素材であれば、権利者が二次創作ガイドラインを公開していないか、商用利用を認めているか、収益化に条件が設けられていないかを確認します。二次創作そのものは認めていても、収益を得る利用については別の条件が設定されている場合があります。
例えばゲーム会社が「個人によるゲーム実況動画の投稿および所定の収益化は可能」と定めていても、その規定がゲーム内音声を抽出して制作した音MADにまで適用されるとは限りません。ガイドラインでは対象となるコンテンツや利用方法まで確認する必要があります。
安全性を高めるなら権利処理できる素材を使う
著作権上のリスクを抑えながら音MADを制作したい場合には、自分で録音・制作した素材や、利用条件が明確な素材を使用する方法があります。
フリー素材を利用する場合でも「フリー」という名称だけで判断してはいけません。商用利用、改変、動画への組み込み、クレジット表記などについて、それぞれの配布元の利用規約を確認します。収益化する動画は商用利用として扱われることもあるため、特に注意が必要です。
また、権利者から個別に許諾を得られる場合は、許諾された利用範囲を記録として残しておくと安心です。公開媒体や収益化の可否、改変可能な範囲なども確認しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
まとめ|音MADは加工の程度ではなく素材の権利と利用条件を確認する
音MADでは大胆な編集が行われるため、完成作品だけを見ると元の素材がほとんど分からないことがあります。しかし、「原型がなくなるほど加工した」という事実だけで、第三者の著作物を自由に利用できるようになるわけではありません。
また、ニコニコなどのサービスにおける収益化停止と、著作権法違反かどうかの判断は分けて考える必要があります。収益化を目的とする場合には、法律だけでなくプラットフォームの最新規約、使用素材の権利者が定めるガイドライン、商用利用条件などを確認しましょう。
個別の音MADが著作権侵害に該当するかどうかは、使用した素材や加工方法、許諾の有無など具体的な事情によって異なります。判断が難しく、収益への影響が大きい場合には、著作権分野を扱う弁護士などの専門家へ具体的な素材と利用方法を示して確認することが確実です。


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