BIOSやUEFI(ファームウェア)に感染するウイルスの開発に関して、「数千万円から数億円かかる」「数十万円で可能」といった話があります。本記事では、その真偽について、技術的な背景と実例をもとに分かりやすく解説します。
ファームウェア攻撃(UEFIルートキット)とは
ファームウェア攻撃は、パソコンの起動プロセスに介入し、OSより前の段階で不正コードを潜ませる高度な手法です。代表例に、LoJax、MoonBounce、BootKitty、CosmicStrandなどがあります。いずれも非常に限定された標的向けに使われてきました:contentReference[oaicite:0]{index=0}。
開発コストの実態:高額な理由と開発工数
この種のマルウェアの開発には、UEFI仕様・ハードウェア構造・セキュリティ機構(Secure Bootなど)への深い理解が必要です。過去の研究では、マルウェアの開発規模と工数は年々増加傾向にあると報告されています:contentReference[oaicite:1]{index=1}。
数十万円という見積もりは、単に小さなデモやPoC(Proof of Concept)レベルを指す可能性があります。企業や国家が用いるような完全なPersistent Rootkitには、通常数人〜十数人のセキュリティエンジニア、リバースエンジニアリング、テストインフラが必要で、**数千万円~数億円**規模になるのが一般的です。
実際のファームウェア悪用例と難易度
ESETが検出した「LoJax」は、LoJackの正規ソフトをUEFIに改変して導入した最初期の事例で、極めてターゲットを絞ったものでした:contentReference[oaicite:2]{index=2}。
Kasperskyが報告した「MoonBounce」は、中国系APT41による高度なファームウェア感染攻撃で、発見例は少なく、専門家グループによる長期戦攻撃とされています:contentReference[oaicite:3]{index=3}。また「TrickBot」のモジュール「TrickBoot」は、少数ですが非国家レベルでもUEFI感染の試行をしていた例として注目されています:contentReference[oaicite:4]{index=4}。
数十万円で可能という情報の落とし穴
数十万円という話は、市販の開発ツールや既存ファームウェア改変コードを流用した“素人の腕試し・実験レベル”である可能性が高いです。実稼働環境や persistence(永続性)、Secure Boot 回避などには対応できず、**実用に耐える攻撃を構築するには遥かに大きなコストと時間が必要**です。
また、現在のUEFIモジュールには「ロゴ描画領域」のような脆弱性(LogoFAIL)を突いた攻撃も報告されており、こうした技術は高度な再現環境や逆アセンブル技術が必要です:contentReference[oaicite:5]{index=5}。
まとめ:誰でも簡単に作れるわけではない
- UEFI感染ウイルスの開発には、専門知識・高度な環境・継続的なテストが必要。
- プロ級のPersistent Rootkit開発は、**数千万〜数億円規模**の開発費・人件費がかかる。
- 数十万円で可能というのは、あくまで簡易的なPoCや限定的デモの話であり、実運用・害目的には適用できない。
- 実際の感染例(LoJax、MoonBounce、BootKittyなど)は、国家レベルや専門エージェントによる標的型攻撃で、一般的ではない。
結論として、「数十万円で開発できる」という話は誤解・過小評価であり、実態としては非常に高いコストと専門技術が必要な非常に高度な領域です。
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